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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)181号 判決 1987年5月06日

原告 小澤市郎

被告 公害等調整委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一原告の請求の趣旨及び請求の原因

原告は、「被告の裁定委員会が公調委昭和五九年(フ)第六号岩石採取計画認可処分取消裁定申請事件について昭和六一年五月三〇日にした裁定を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として次のように陳述した。

一  本訴に至るまでの経緯

1  山梨県知事は、昭和五九年五月七日山梨県指令森土第二―一〇号をもつて、訴外千野建材株式会社(山梨県甲府市朝気一丁目一番二二号所在)(以下「千野建材」という。)が昭和五九年二月一〇日付けでなした山梨県東八代郡御坂町上黒駒字なめら石五三六〇―一外九八筆の土地についての岩石採取計画認可申請に対し認可処分(以下「本件認可処分」という。)をなした。

しかし、本件認可処分には、後記のとおりこれを取り消すべき実体上、手続上の違法事由が存する。

2  そこで、原告は、昭和五九年八月二四日、被告に対し、本件認可処分の取消しの裁定を申請したところ(公調委昭和五九年(フ)第六号岩石採取計画認可処分取消裁定申請事件)、被告の裁定委員会は、昭和六一年五月三〇日、原告の同申請を棄却する旨の裁定(以下「本件裁定」という。)をした。

二  本件裁定の違法について

1  本件裁定の基礎となつた事実を立証する実質的証拠がない。

原告は、本件裁定において、本件認可処分の実体的違法事由として、千野建材の前記採取計画に基づいて岩石を採取すると、山崩れを惹起し、本件採取場のすぐ下部にある金川の洪水を発生させ、したがつて、本件岩石採取計画に基づいて行う岩石の採取は、他人に危害を及ぼし、公共の用に供する施設を損傷し、農業、林業その他の産業の利益を損じ、公共の福祉に反するものであるから、本件認可処分は採石法三三条の四に違反する旨具体的事実と根拠を挙げて、主張し(裁定書事実第二の三申請の理由2)、これを立証した。

ところが、本件裁定は、裁定書一七丁表七行目から同一一行目までにおいては、過去の水害の状況、周辺の地形及び堤防の状況によれば、もし申請人の主張するように、本件認可処分による岩石採取の実施により、金川の大洪水が発生した場合には、現在においても、申請人の居住地である成田地区は人身への被害を含む直接の被害を受けるおそれのあるものというべきである、との判断を示しながら、同二六丁裏三行目から同七行目までの結論部分においては、本件岩石採取計画に基づいて岩石を採取すると山崩れを惹起し、金川の大洪水を発生させ、申請人の身体、生命に危害が及び、又は申請人の農業の利益を侵害することの証明はない旨判断している。

したがつて、右認定判断は、相矛盾し本件裁定には理由そごの違法があるばかりではなく、右申請の理由2の違法、不当はないとした本件裁定の認定判断は、実質的証拠に基づくものではない。

2  本件裁定は、法令の解釈を誤つた違法があり、又は被告の裁定委員会のした本件裁定手続は違法である。

(一) 原告は、本件裁定手続において、本件認可処分の実体的違法事由として、千野建材は、裁定書事実第二の三申請の理由3のとおり、過去に河川の損壊を行い、昭和五五年及び五六年の認可の際の条件をも遵守しなかつたもので、このような業者に岩石採取計画を認可すれば、再び認可の条件に違反することが明らかであり、処分庁はそのような事実を知りながら本件認可処分を行つたもので、本件認可処分は、採石法三三条の四の認可基準に反する違法なものである旨主張し、これを立証した。

しかるに、本件裁定は、誤つた法律的見解を前提として、千野建材の過去における河川損壊、認可条件不遵守の非違行為の有無、その態様及びいきさつについて何ら審理、判断することのないまま、本件認可処分当時千野建材について右不認可事由に当たるものがあつたとは認められないと判断し、本件認可処分には右申請の理由3の取消事由はなく、申請人の主張は失当である旨断定している。

したがつて、右認定判断には、採石法三三条の四の解釈を誤つた違法がある。

(二) 原告は、本件裁定手続において、本件認可処分の手続的違法事由として、都道府県知事は、岩石採取計画の認可処分に先立つて、関係市町村及び関係部落の住民代表等を対象に、現地説明会あるいは公聴会を開催するのが全国的な慣習法であるのに、処分庁は本件認可処分に先立つて、かつて金川の水害により被災した歴史のある御坂町、石和町及び一宮町の二四〇〇余戸の住民を対象に、現地説明会あるいは公聴会を開催しなかつたから、本件認可処分は違法である旨主張した(裁定書事実第二の三申請の理由4)。

ところが、本件裁定は、申請人主張の慣習法の存在は認められないから、その余の点について判断するまでもなく右主張は認められない旨判断したが、右判断は、その前提となる事実を誤認し、ひいては法令の解釈を誤つた違法がある。

(三) 採石法三三条の六所定の関係市町村には、御坂町ばかりでなく、一宮町及び石和町も該当する。金川は御坂町と一宮町との境界を二キロメートルにわたり流水し、金川の両岸の堤防に地続きの行政区が一宮町には五、石和町には四ある。しかも、三町は、治山面では一部事務組合である黒駒恩賜県有財産保護組合を構成し、また治水面では、金川水利組合を江戸時代から構成しているからである。ところが、処分庁は石和町長及び一宮町長の意見を聴かず本件岩石採取計画を認可した。したがつて、本件認可処分は違法であり、原告はその旨主張した(裁定書事実第二の三申請の理由5)が、本件裁定は、一宮町及び石和町は本件採取場の所在地を管轄する御坂町と同視しうる極めて密接な関係にあるものとは認められないから、右両町は本件採取場についての採石法三三条の六の関係市町村には該当しないとして、本件認可処分に先立つて両町長に意見を聴かなかつたことは違法でないと判断した。

右判断にはその前提となる事実を誤認し、その結果法令の解釈を誤つた違法がある。

(四) 採石法三三条の六所定の関係市町村長の意見を提出するについては、当該市町村長は、関係住民及び市町村議会に岩石採取計画認可申請書の内容を報告し、その意見を聴いた上でなすべきである。ところが、御坂町長は、関係住民や町議会の意見を聴かず、かかる意見照会があつたことを関係町民や町議会に秘したまま独断専行で意見書を提出した。

原告は、関係町民や町議会の意見を聴くことなしに作成された町長の意見書を受けてされた本件認可処分は違法である旨主張したが(裁定書事実第二の三申請の理由6)、本件裁定は、採石法三三条の六の規定により関係市町村長が意見を述べるに当たつては、当該市町村長が自ら判断と責任において意見を形成して述べれば足りる旨判断した。したがつて本件裁定には、採石法三三条の六の解釈を誤つた違法がある。

(五) 山梨県においては、岩石採取認可申請の認可に当たつては、山梨県岩石、山・陸砂利、土採取計画審査会設置運営要領に基づいて設置された同審査会の認可相当の答申を経て行うべきものとされている。しかし、本件認可処分については、同審査会の認可相当の答申書がない。仮に口頭で答申がされたとしても、同審査会においては、口頭の答申は許されていないうえ、議事録が作成されていないから正規の手続を経たものではない。したがつて、本件認可処分は同審査会の認可相当の答申を経ずにされた違法の処分である(裁定書事実第二の三申請の理由7)。

しかるに、本件裁定は、同審査会の審査がされなかつたことを認定しながら、この事実は本件認可処分の取消事由にはならない旨判断した。したがつて、本件裁定には法令の解釈を誤つた違法がある。

(六) 原告は本件裁定手続において、御坂町、一宮町、石和町の本件認可処分に対する不服裁定を申請する適格を有する者一六一〇人が、立沢の山砂利採取に絶対反対する旨及び立沢の山砂利採取認可の取消しを要求する旨の山梨県知事及び公害等調整委員会あての署名簿を甲第一八号証の一ないし九〇及び第二二号証の一ないし二〇として提出したが、被告の裁定委員会は、違法にもこれを証拠として採用しなかつた。したがつて、本件裁定手続は違法である。

三  そこで、原告は、鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律の規定により本件裁定の取消を求める。

第二被告の答弁

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因に対する答弁として次のように述べた。

一  請求原因一について

請求原因一の事実は認める。

二1  請求原因二1について

被告の裁定委員会が、原告の主張どおりの判断をしたことは認めるがその余は争う。

原告の右主張が失当であることは、裁定書一八丁裏二行目から二六丁裏七行目までに説示のとおりであつて、右の認定判断は、実質的証拠に基づくものであり、相当である。

2  同2(一)について

被告の裁定委員会が原告主張の千野建材の過去の河川損壊認可条件の不遵守等の有無につき判断をしなかつたこと、裁定書事実第二の三3の原告の主張につき、被告の裁定委員会が、千野建材に不認可事由に当たるものがあつたとは認められないと判断したことは認めるが、その余は争う。

原告の右主張が失当であることは、裁定書二六丁裏八行目から二八丁表一〇行目までに説示のとおりであつて、右の認定判断は実質的証拠に基づくものであり、相当である。

3  同2(二)について

裁定書事実第二の三4の原告の主張につき、被告の裁定委員会が原告の主張のとおりの判断をしたことは認めるが、その余は争う。原告の右主張が失当であることは、裁定書二八丁表一一行目から同裏六行目までに説示のとおりであり、右の判断は相当である。

4  同2(三)について

裁定書事実第二の三5の原告の主張につき、被告の裁定委員会が、原告の主張のとおり判断をしたこと、金川と御坂町、一宮町及び石和町との関係が原告主張どおりであること、並びに御坂町、石和町及び一宮町の三町が一部事務組合である黒駒恩賜県有財産保護組合を構成して治山事業を行つていることは認めるが、その余は争う。

原告の右主張が失当であることは、裁定書二八丁裏七行目から三〇丁裏四行目までに説示のとおりであつて、右の認定判断は、実質的証拠に基づくものであり、相当である。

5  同2(四)について

裁定書事実第二の三6の原告の主張につき、被告の裁定委員会が原告主張のとおりの判断をしたことは認めるが、その余は争う。右裁定委員会の右判断は相当である。

6  同2(五)について

裁定書事実第二の三7の原告の主張につき、被告の裁定委員会が、原告主張のとおりの判断をしたことは認めるが、その余は争う。

原告の右主張が失当であることは、裁定書三一丁表二行目から三二丁裏六行目までに説示のとおりであつて、右の認定判断は、実質的証拠に基づくもので、相当である。

なお、被告の裁定委員会は、処分庁が、本件認可申請について、昭和五九月二月二三日に開催された同審査会において審査の結果、認可相当との結論であつたので、所定の手続を経て、本件認可処分を行つたことを実質的証拠に基づいて認定している。

7  同2(六)について

本件裁定手続において、原告から主張のとおりの甲号証の証拠調べを求める証拠申出書及び右甲号証の写しが提出されたこと、並びにそれらの署名簿につき書証としての取調べがされなかつたことは認めるが、その余は争う。

第三証拠関係<省略>

理由

一  原告は昭和五九年八月二四日被告に対し本件認可処分の取消しの裁定を申請したところ、被告の裁定委員会は、昭和六一年五月三〇日原告の同申請を棄却する裁定をしたことは、当事者間に争いがない。

二  前記事実第一の二1の主張について

1  原告は、本件裁定の、本件岩石採取計画に基づいて岩石を採取すると山崩れを惹起し、金川の大洪水を発生させ、申請人(原告)の身体生命に危害が及び、又は申請人の農業の利益を侵害することの証明はないとの認定判断は、実質的証拠に基づかないと主張するのでこの点について検討する。

本件裁定は、採石法三三条所定の都道府県知事の岩石採取計画の認可処分につき、同法三三条の四所定の不認可の事由があることを理由に不服の裁定を申請し、右認可処分の取消しを求める付近住民等認可処分の相手方以外の第三者は、同条所定の不認可の事由があることと、その事由によりその者の法律上保護された利益が侵害されたこと又は必然的に侵害されるおそれのあることを証明する責任を有するものと解釈し、この解釈を前提として挙示の証拠により、<1>本件岩石採取計画に基づく岩石採取の実施が直ちに大雨、地震等により切羽又は地山の大崩壊を引き起こすおそれがあることを認定するに足りる証拠はないこと、<2>本件採取場の切羽の状況に照らせば、大量の岩石が金川又は達沢川に流出し、さらには、これをせきとめる等により大洪水を引き起こすおそれはほとんどないと推認されること、<3>巨石積の空隙等から流出した少量の土砂あるいは礫が申請人の身体生命に危害を及ぼし、又はその農業の利益を害することを認めるに足りる証拠もないこと、<4>爆薬を使用して岩石を採取しても、現在の時点で将来原告の主張するような災害が生ずることは必至であるということはできないこと等の諸事実を認定したうえ、本件岩石採取計画に基づいて岩石を採取すると、山崩れを惹起し、金川の大洪水を発生させ、申請人(原告)の身体生命に危害が及び、又は申請人の農業の利益を侵害することの証明はないといわざるをえないと認定判断しているところ、右証拠の取捨判断に経験則に反する違法は認められないから、右の認定判断は、実質的証拠に基づくものといえる。したがつて、本件裁定に所論の違法はない。

2  なお、原告は、右の点に関する裁定には理由そごの違法がある旨主張するが、本件裁定は、本件裁定手続における原告の申請適格の有無を判断するに当たり、過去の水害の状況、周辺の地形及び堤防の状況を前提とすると、申請人の主張するように本件認可処分による岩石採取の実施により金川の大洪水が発生したものと仮定した場合には現在においても、申請人の居住地区は人身への被害を含む直接の被害を受けるおそれがあるということができるから、申請人に本件認可処分に対する不服裁定の申請適格を肯定することができるとしたのであり、本件認可処分による岩石採取の実施による金川の大洪水の発生は、単に仮定的に肯定されているにとどまるから、本件裁定が前記のとおり本件岩石採取計画に基づいて岩石を採取すると山崩れを惹起し、金川の大洪水を発生させることの証明はないとした判断との間に何らの矛盾、そごはなく、所論は理由がない。

三  前記事実第一の二2の本件裁定は法令の解釈を誤り、又は裁定手続には法令違背があるとの主張について

1  原告は、千野建材は過去に河川の損壊を行つたり昭和五五年及び昭和五六年の認可条件を遵守しなかつたから、このような業者に対してなされた本件認可処分は採石法三三条の四の認可基準に反する違法なものであり、これを是認した本件裁定は同条の解釈を誤つたものである旨主張する。

(一)  しかし、現に認可申請のされた岩石採取計画より前に認可された別の岩石採取計画による採石の実施の際に、採石業者が認可された採取計画外の場所で掘削をし、河川を損壊し、認可の条件に従わない等の非違行為をしたとしても、かかる事由が採石法三三条の四の不認可事由として掲げられていない以上、当然には、後にされた認可申請の不認可事由となるものとは解されず、ただ、過去における非違行為に至つたいきさつやその態様、その結果その他の事情を総合して、岩石採取計画を遵守して岩石採取を行う意思がなく、その採取により同法三三条の四に規定する不認可事由に該当するような結果をもたらすことが認可に先立つて明白に認められる場合には、不認可事由に当たるものと解するのが相当である。

(二)  しかるところ、本件裁定が千野建材の過去における河川の損壊行為や認可条件の不遵守等の非違行為について判断しなかつたことは原告主張のとおりであるが、採石法三三条の四の解釈が右のとおりである以上、右の点について判断の要はなく、本件裁定に所論の違法はない。

(三)  そして、本件裁定は、挙示の証拠により千野建材が、昭和五九年五月七日に本件認可処分がされて以降今日まで岩石採取計画に従い、又はそれより安全な方法によつて採掘をしていることを認定し、千野建材が岩石採取計画を無視し、他人に危害を及ぼし、公共の用に供する施設を損傷し、又は農業、林業若しくは他の産業の利益を損じ、公共の福祉に反する方法で岩石を採取することが本件認可処分当時明白であつたとは言い難い旨認定判断しているところ、その証拠の取捨選択に経験則に反する違法は認められないから、実質的証拠に基づくものといえ、本件裁定に所論の違法はない。

2  原告は、岩石採取計画の認可処分に先立つて、関係市町村及び関係部落の住民代表等を対象に現地説明会あるいは公聴会を開催するべきであつたのに、これを要しないとした本件裁定は、採石法の解釈を誤つた違法がある旨主張するが、現地説明会あるいは公聴会を開催すべきであるという全国的な慣習法があるとは認められないから、その余の点につき判断するまでもなく申請理由4は理由がないとした本件裁定の認定判断に経験則違背はなく実質的証拠に基づくものといえるから、本件裁定に所論の違法はない。

3  原告は、採石法三三条の六に規定する関係市町村には、石和町及び一宮町も該当すると解すべきであるのに、該当しないものと解した本件裁定は前提たる事実を誤認し、それにより法令の解釈を誤つた違法がある旨主張する。

本件裁定は、採石法三三条の六に規定する関係市町村とは、当該岩石採取場周辺の実情を最もよく把握している岩石採取場の所在地を管轄する市町村及びこれと同視しうる極めて密接な関係にある市町村を指すものと解し、挙示の証拠により、本件採取現場、金川と御坂町、石和町及び一宮町の三町との関り等を認定し、これを基礎として一宮町及び石和町は、本件採取場の所在地を管轄する御坂町と同視しうる極めて密接な関係にあるものとは認められないから、本件採取場についての採石法三三条の六の関係市町村には一宮町及び石和町は該当せず、本件認可処分に先立つて両町長に意見を聴かなかつたことは違法でないと認定判断しているところ、その証拠の取捨選択に経験則に反する違法は認められず、実質的な証拠に基づくものといえ、右認定の事実関係のもとにおいてした右判断も相当であつて、本件裁定に所論の違法はない。

4  原告は、採石法三三条の六の規定により関係市町村長が意見を述べるに当たつては、あらかじめ関係住民又は議会に岩石採取計画認可申請書とその添付書類の副本の内容を報告し、かつ、関係住民又は議会の意見を聴くことを要するのに、これを要しないとした本件裁定は法令の解釈を誤つている旨主張する。

しかし、採石法三三条の六の規定によれば、採石法三三条の認可処分に際し都道府県知事から意見を徴された関係市町村長は、自らの判断と責任において意見を述べれば足り必ずしも関係住民又は議会に岩石採取計画認可申請書等の内容を報告し、あるいはその意見を聴くことを要しないものと解され、これと同趣旨の見解のもとに申請の理由6は失当であるとした本件裁定は相当であつて、本件裁定に所論の違法はない。

5  原告は、山梨県において岩石採取計画認可申請の認可に当たつては、山梨県岩石、山・陸砂利、土採取計画審査会の認可相当の答申を経て行うべきものとされているところ、本件認可処分は同審査会の認可相当の答申を経ずにされた違法の処分であるのに右事実は本件認可処分取消事由にならないとした本件裁定には法令の解釈を誤つた違法があると主張する。

この点につき本件裁定は、挙示の証拠により本件認可申請についても昭和五九年二月二三日開催の同審査会において審査の結果、認可相当との結論を得たので、山梨県は、所定の決裁手続を経て本件認可処分を行つたこと、同審査会は条例規則等の法令によつて設置されたものではなく、内部規範たる要領によつて設置されたもので、処分庁が採石法三三条等の申請を処理するに当たり関係各課が協議し、意見を調整するための全くの部内の会議にすぎないことを認定したうえ、そのような性格の審査会の審査がされなかつたこと又はその審査の手続のかしは本件認可処分の取消事由とはならないと判断したものであつて、その証拠の取捨選択に経験則に反する違法は認められないから実質的証拠に基づくものといえ、右認定の事実関係のもとにおいてした右判断は相当であつて、本件裁定に所論の違法はない。

6  原告は、本件裁定手続には原告が証拠として申し出た文書(署名簿)を採用してこれを取り調べなかつた違法がある旨主張し、右の取調べがなされなかつたことは本件裁定申請事件記録に徴し明らかであるが、弁論の全趣旨によれば、被告の裁定委員会は、原告主張にかかる署名簿は、本件裁定申請を理由あらしめる事実と関連性がないものと判断してこれを書証として取り調べないとする措置をとつたと認められるところ、右判断は本件裁定申請事件記録中の右証拠申立書記載の立証趣旨、署名簿の記載内容に照らして相当であると認められるから、被告の裁定委員会の右措置に所論の違法はない。

四  以上の次第で、本件裁定が本件裁定申請を失当であるとしてこれを棄却したのは相当であり、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木弘 時岡泰 宇佐見隆男)

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